読了時間の目安:
約11分
イームル工業株式会社
(広島県東広島市)

神崎さん、岡田さん、山口さん イームル工業株式会社は1947年(昭和22年)創立。水力用発電機器および周辺機器の設計・製作・販売・修理などを行っている。
従業員数は115名(2024年4月現在)。
今回は、代表取締役 社長の山口克昌さん、常務取締役 生産統括部長・企画総務グループ担当の神崎元宏さん、企画総務グループの岡田静花さんからお話を伺った。
高ストレス者の多くが産業医面接を受けようと思える環境を日頃から作っている。
まず、ストレスチェックの取組みと高ストレス者への医師による面接指導、集団分析結果をもとにした職場環境改善活動について、お話を伺った。
日頃から相談対応をしている産業医が高ストレス者の面接指導も担当しており、対象者の約半数が面接指導を受けています 「ストレスチェックは、外部業者に委託して、質問紙で実施しています。高ストレス者で医師による面接指導が必要と判断された対象者は、産業医が面接指導を行っています。産業医は近隣のクリニックの医師に依頼しており、日頃から安全衛生委員会への参加や健康相談対応をしてもらっていて従業員も話しやすく、面接指導の対象者の約半数が面接を受けています。」
集団分析結果を踏まえて各グループで職場環境改善を展開しています 「ストレスチェックの集団分析結果は、企画総務グループの担当者と各部門長が外部業者から説明を受け、さらに各部門長が各グループのリーダーに共有しています。そして、集団分析結果を踏まえて各グループで職場環境改善を展開するという流れです。例えば、業務の量や質によるストレス負荷が高いという結果の場合、長時間労働が要因の一つとなっていることも多いので、業務効率化の方法を検討し実施する、といったことを進めています。」
長時間労働を削減するために、マルチスキル人材を育成し繁忙期の応援体制を構築することを目指しています 「長時間労働への対策は、2年前から取組みを強化しています。具体的には、従業員がさまざまな業務に対応できるよう、マルチスキル人材の育成に力を入れています。期末や出荷時期などの繁忙期を事前に想定することはできますが、一時的な繁忙期のために従業員数を増やすことは、当社の従業員規模では難しいというのが実情です。従業員一人ひとりが、他業務の支援もできるスキルを身につけていけば、繁忙期の応援体制を構築することができ、業務の平準化を図り長時間労働を少しでも減らすことができるのではないかと考えています。」
従業員アンケートと全員面談を通じて社内の潜在的な課題を把握し、“メンタルヘルス不調を繰り返さない”ことを目指して取組みを進めている。
次に、職場のメンタルヘルス対策に取り組んだ経緯と、課題把握の方法についてお話を伺った。
業務量の急激な増加により従業員の心身への負担が大きくなったことをきっかけに取組みをはじめました 「2010年以降、当社の業務量は急激に増加しました。背景には、当社が1950年代以降に建設した水力発電所の老朽化が進んでいたことと、2012年にはじまった“固定価格買取制度”により再生可能エネルギーを発電する設備の建設や更新の受注が急増したことがありました。もちろん売上も増えましたが、業務量の増加に対して人材育成が追い付かず、従業員の心身への負担は年々大きくなっていきました。メンタルヘルス不調を訴える従業員は、2013年まではほとんどいませんでしたが、2018年には全従業員の8%を超える状況となりました。」
「こうした状況の中、2018年に私(山口さん)が関連会社から当社に経営者としてきました。業務過多の状況を改善するために、業務分担の見直しや無駄な業務の排除、アウトソーシングの実施など、業務プロセスの改善を行いました。同時に、従業員数を約 10%増やし、業務遂行の安定化を図りました。しかしながら、メンタルヘルス不調者の数を大幅に削減することはできませんでした。」
従業員アンケートと全員面談を通じて、社内の潜在的な課題を把握しました 「そこで、次に従業員アンケートと全員面談を実施しました。アンケートは従業員の満足度を調べるもので、約100問の質問に5段階評価で回答する形式と自由記述で構成されていました。」
「アンケート結果と全員面談から、社内の潜在的な課題が浮き彫りとなりました。1つは従業員が『働く目的、働きがいを見失っている』、もう1つは社内の『孤独感が大きく、コミュニケーションが少ない』という課題でした。この2つの課題を克服するため、働きがいの再構築やコミュニケーションの活性化を図る施策の検討、それを定着させる仕組みづくりに着手しました。」
取組みに当たっては“メンタルヘルス不調を繰り返さない”ことを最も重視しました 「施策、仕組みづくりを検討する上で、最も重視したことは、“メンタルヘルス不調を繰り返さない”という視点です。“メンタルヘルス不調を繰り返さない”ためには、本人の回復だけではなく、受け入れ側の職場環境や雰囲気も変える必要があると思いました。『隣の人、隣の部門が何をやっているのか分からない』、『会社は役員やリーダーがつくるものであり指示に従うだけ』、『福利厚生が少ない』といった声が多かったことから、社内が閉鎖的であり、従業員自身がより良い会社づくりに携わる機会が少ないという実情も明らかになりました。そこで、社員が腹落ちできるようなわかりやすい施策にすること、従業員がやりたいと思うことを実現できる機会を確保すること、そしてなによりも、『この会社を自分たちでより良い会社にしたい!』という意識が共有できるよう、従業員一人ひとりが主役となる活動を心がけることにしました。」
コミュニケーション活性化を目的として、オープンスペースの新設、新たな会議体の設定などの取組みを行っている。
働きがいの向上と、社内のコミュニケーション活性化のための具体的な取組みについてお話を伺った。
創業者の想いが一人ひとりの使命となり働きがいとなるよう、共有するための動画を作成しました 「まず、従業員が『働く目的、働きがいを見失っている』という課題について取り組みました。働く目的、働きがいは、人によって異なりますし、生活環境の変化によっても変わっていくものだと思います。そこで、人や生活環境に依存しない“働きがい”を従業員がもてるようにしたいと考えました。創業者織田史郎の想い『これからは社会に役立つ仕事をしよう』と、当社のMVV(Mission Vision Value)が、一人ひとりの使命となり、働く目的、働きがいにつながっていくのではないかと考え、これらを従業員に分かりやすく伝え共有するための動画を作成しました。迷いや不安を感じた時に立ち戻れるフラッグとして掲げました。」
従業員の発案をもとにオープンなコミュニケーションスペースを新設しました 「また、『孤独感が大きく、コミュニケーションが少ない』という課題にも取り組んでいます。1つ目に、“コミュニケーションの場づくり”を実施しました。以前はコミュニケーションを取れる場所が少なく、会議室の雰囲気も固苦しい印象だったのですが、本館1階全体を、誰でもいつでも利用できるカフェテリアに改装しました。リラックスした雰囲気のミーティングスペースやアウトドアスペースを設置し、コミュニケーションのための場を整備しました。また、リーズナブルな壁紙を使用することで気軽に張り替えられるようにしたり、受付横の生花を週に1度変えたりすることで、飽きのこない工夫もしています。定期的に空間に変化をもたらすことで、心機一転、気持ちよく働ける環境を作り続けていきたいと考えています。」
「これらの工夫は、すべて従業員の発案で行っています。カフェテリアのデザインも、複数社の提案の中から全従業員の投票で決定しました。」
従業員が主体的に会社をより良くするための機会を作っています 「2つ目に、“コミュニケーションの機会づくり”を実施しています。例えば、新たな会議体“e-ルールミーティング”では、各部門の若手従業員を中心に構成しており、2週間に1度集まって、社内の規程やルールの作成や見直しを検討しています。検討結果は、四半期に1度、役員会で報告しています。部門の垣根を超えたコミュニケーションの機会を作ることと、目の前の小さなことでも構わないので、従業員自身が課題に気づき改善していく、という意識を持ってもらいたいという思いから始めました。一つの違和感に気づくと、それに紐づいて他の課題にも気づき、改善しようとする意識が自然と働いていきます。規程やルールは従業員を縛るものではなく、従業員自身が見直しをしていくことで、自然な内部統制にもつながっていくと考えています。」
「また、別の会議体“チーム シェアインフォメーション”では、従業員が日々の業務の中で“社内外に発信したい”と感じた情報を集め、内容を精査し実際に発信するところまでをゴールとして活動しています。発案から実行までを経験できるチャレンジの機会になればと考えています。」
「多くの従業員がいずれかの会議体に参加し、コミュニケーションを深めることで、急激に社内の雰囲気が明るくなってきていることを実感しています。これらの会議体からの提案事項は、役員会で検討されます。役員会で採用され実施につながっていくことで、従業員自身がより良い会社を作っているのだという意識を育む機会にもつながると考えています。従業員一人ひとりが主役というカルチャーが醸成されてきていると感じています。」
社内の雰囲気が変わってきていることを数字からも日々の様子からも実感しています 「こうした取組みの結果、最近では、メンタルヘルス休業者は1%未満となりました。職場復帰の際には、職場復帰支援プログラムをもとに対応しており、産業医としっかりコミュニケーションを取りながら、職場復帰後の業務調整やフォローを丁寧に行っています。」
「従業員満足度に関するアンケート調査は、2年に1度のペースで継続的に実施しています。回答率は、2018年当初は50%でしたが、最近はほぼ100%です。アンケート結果と対応策については、全体会議の中で全従業員に説明しています。従業員の意見に真摯に向き合っている姿勢と、その上での経営者としての考えを示すことは重要だと思っています。『会社側の情報をここまで開示して丁寧に説明してくれるんだ』といった従業員からの声をもらったこともあります。」
「社内の雰囲気が変わってきていることを日々実感しています。従業員一人ひとりが自ら考える力を養える環境づくりを継続しつつ、社会環境、人の意識の変化に応じた働きやすい環境づくりにも柔軟に対応していきたいと考えています。会社、従業員の元気が社会に届けられるよう、ワクワクする会社づくりにこれからも取り組んでいきたいです。」
【取材協力】イームル工業株式会社
(2025年3月掲載)